松島みどり氏、小渕優子氏の問題について(その1)

「政治とカネ」の問題で、松島みどり氏と小渕優子氏が、閣僚を辞任しました。この事件については、巷間、非難する人、擁護する人、はたまた、松島みどり氏を国会で追及した民主党の蓮舫氏を非難する人、様々な意見が飛び交っており、かなり情報が混乱しているようです。私は、「行政書士資格を持つ選挙コンサルタント」として、各級選挙の支援や、政治資金収支報告書の作成・提出にプロとして関わっています。その立場から、今回の一連の事件について、いったい何が問題なのかを、整理して解説しておきたいと思います。
 
1.松島みどり前法務大臣の「うちわ」事件について
 この事件は、松島みどり氏が、選挙区内で開催された地域の夏祭り会場で、不特定多数の参加者に対して、自分の似顔絵や氏名を大書し「討議資料」と表示した「うちわ」を配布した行為が、公職選挙法第199条の2第1項で禁じられている「選挙区内にある者に対する寄附」に当たるのではないか、というものであり、10月7日の参院予算委員会で、民主党の蓮舫氏が指摘しました。
 この指摘に対し、松島みどり氏は、「うちわのような形をしているが、『討議資料』として配ったものであり問題はない。」という趣旨の反論をしました。
 その後、ネット上などで、蓮舫氏が自らの選挙運動期間中に「選挙運動用ビラ(法定ビラ・証紙ビラ)」として配布したやや厚い紙に指を入れる穴を開けて「うちわ」としても使える形状をした印刷物をとりあげ、「自分だって同じことをやっているではないか。」とか「民主党お得意のブーメランだ。」と、追及した蓮舫氏の側を非難する声が挙がり、「みんながやっているのに、松島みどり氏はかわいそうだ。」とか、「安価なうちわを配ったぐらいのことを追及している暇があれば、政策論争をしろ。」、「この程度の軽微な違反をいちいち検察に刑事告発すると、民主党自身を攻撃するのにその手が使われる。」といった論評まで出てきました。

 この話は、いくつかの論点と誤解が入り混じって混乱しています。まず、最初の論点は、
‐湘腓澆匹蟷瓩痢屬Δ舛錙彷柯曚牢麌蹐謀たるか
という点です。
 松島みどり氏が配布した「うちわ」は、丸い厚紙に柄が取り付けられたものであり、一目瞭然、正真正銘の「うちわ」です。当然、その作成には費用がかかっていますし(政治資金収支報告書によれば単価80円だそうです)、デザインはともかくとして、通常は有償で販売されているものですから、「有価物」であることも間違いないでしょう。企業が「販促グッズ」として無料で配布することも多いですが、偶然そういったものを貰えなかった人が、「うちわ」を使いたいと思ったら、お店で買うわけですから、「当たり前にタダで貰えるもの」ではありません。そう考えると、公職選挙法第199条の2第1項で禁止される「選挙区内にある者に対する寄附」であることは間違いないと思われます。ただし、この条項が適用されて罰せられるためには、「通常一般の社交の程度を超え(公職選挙法第249条の2第3項)」ることが必要とされています。この条件は、寄附をした相手方との(従来の)交際の状況等に照らして判断されるものとされるため(最高裁判例)、裁判所の判断が必要となってきます。しかしながら、今回は、日常的に交際していない「不特定多数」に配布したわけですから、ハードルは極めて低いと考えられます。
 なお、ここで言われている「選挙区内にある者に対する寄附」というのは、わかりやすく言うと、金品を使った「単純買収」です。「買収」というのは、文字通り、「お金や品物で票を買う行為」であり、選挙運動の中でも最も「古典的」な違反であって、最近はほとんど見られなくなって来ています。

 そこで、出て来る次の論点は、
⊂湘腓澆匹蟷瓩主張するように「討議資料」だったら配布できるか
という点です。
 政治の世界において「討議資料」と言う場合、それは、後援組織の内部的な政策討議のための資料を意味し、表紙に「討議資料」とか「部内資料」といった表示がなされているのが一般的です。俗に「リーフレット」と称されるものです。通常、選挙運動期間中に配布することが認められたごく一部の文書を除き、選挙に立候補しようとする者(政治家)の名前を大書し、大きな顔写真や似顔絵、プロフィール、政策等を掲載した文書を、選挙運動期間外に不特定多数の有権者に対して配布する行為は、公職選挙法第239条第1項第1号で禁止される「事前運動」に該当する文書図画違反だとされています。しかしながら、そもそもその政治家を支援する後援組織に入っている会員が政策内容を討議するために用いる「内部的な資料」である限りにおいては、この種の文書は違反としては扱われていません。また、後援組織への入会を前向きに考えている有権者が政策やプロフィールを検討する材料として用いることについても、事実上黙認されています。つまり、「討議資料」とは、あくまでも後援組織の部内資料としてのみ存在が認められている(黙認されている)存在であるため、それを不特定多数に配布することはできないということなのです。
 よく、選挙に詳しいという人が、「討議資料」と表示しておけば何を配っても捕まらない、という説明をすることがあります。「選挙プランナー」や政治家本人でも、そのように言う人が大変多いようです。しかし、それは大きな間違いです。この種の文書図画違反については、「討議資料」という表示の有無で違法性が判断されるわけではなく、その文書全体を見て、実態として「事前運動」にあたるかどうか、「売名行為」にあたるかどうか、有権者の目にはどのように映るか、ということから、違法性の有無が判断されるのです。ですから、「討議資料」という表示には、法的な効力は何一つありません。ただ一つだけメリットがあるとすれば、後援会の会員以外にこの種の文書をわたしてしまい、それが警察に持ち込まれて、刑事から事情を聴かれた時に、「この文書は、『討議資料』という表示を見ていただければわかるように、後援会員以外にはわたしていません。もし後援会員以外の人が持っていたとすれば、元々持っていた後援会員が勝手に第三者にわたしたか、それとも、何者かが悪意で持ち出してばらまいたに違いありません。」といった言い訳をする「ネタ」になる、というだけのことです。簡単に言うと、文書に「討議資料」と表示することは、「この文書は不特定多数には配布しません」と宣言することを意味する、ということです。松島みどり氏は、「討議資料」が法的にどのような意味を持つのか、を全く理解していないものと思われます。
 なお、「討議資料」と「選挙区内にある者に対する寄附」との関係で言えば、かつて現在ほど印刷費が安くなる前は、厚い紙を使ってカラー印刷をするリーフレットの単価が1枚30円程度したことから「有価物」と見なされていて、リーフレット形状の「討議資料」を不特定多数に配布することは、「事前運動」である以前に「有価物」による「買収」だと判断されていました。その歴史的経緯から見ても、「討議資料」だから「うちわ」を配ってもよい、という松島みどり氏の理解が間違っていることは明らかだと思います。
 この,鉢△鬚読みいただくとわかるように、松島みどり氏の行為は、どう言い訳しても、公職選挙法に抵触する行為であると言わざるを得ないのです。

 今回の事件の構造は、実はこれだけであり、非常に単純なものです。ところが、公職選挙法の知識のない人たちが、聞きかじりの中途半端な知識を振り回したことによって、世間の論調が混乱しています。それが、国会で追及した民主党の蓮舫氏も「うちわ」を配っていたではないか、というものです。これについても、論点がいくつか存在します。まずは、
O∞峪瓩配布していたものは、どのような位置づけの文書か
という点です。
 この文書に印刷されていた内容は、松島みどり氏の「うちわ」に印刷されていたものと、大差ありません。それでは、松島みどり氏と同様に、少なくとも「事前運動」にあたる「文書図画違反」ではないか、と思われるかもしれません。しかしながら、蓮舫氏の文書には、「証紙」が貼付されていました。この「証紙」は、衆参両院の議員選挙と、都道府県知事や区市町村長の選挙で配布が認められている「選挙運動用ビラ」に貼付されるものです。つまり、蓮舫氏の文書は、選挙運動期間中に配布された「選挙運動用ビラ」であることがわかりますから、松島みどり氏の「うちわ」とは異なり、「事前運動」には当たりません。
 この「選挙運動用ビラ」というのは、選挙が公示・告示され、立候補届が受理されてから、投票日前日の夜24時までの間に限って、公職選挙法第142条第1項において配布を認められているビラのことであり、ビラの規格や種類、枚数、配布方法について、次のような制限があります。また、いずれも、事前に選挙管理委員会に届け出て許可を受け、交付された「証紙」を1枚ずつ貼付する必要があります。「証紙」には、規定の枚数以内であることを示す意味があります。
  イ)ビラの規格:A4判以内の大きさで形状、紙質は自由。
          ただし、1枚ものに限り、冊子は不可。
  ロ)種類:2種類以内。
  ハ)枚数:選挙の種類、選挙区の大きさによって異なるが、
       いずれの場合も2種類を通した枚数。
        衆議院議員(小選挙区) :7万枚以内。
        参議院議員(比例代表区):25万枚以内。
        参議院議員(選挙区)  :選挙区の大きさにより10万枚以内〜30万枚以内。
        都道府県知事      :選挙区の大きさにより10万枚以内〜30万枚以内。
        政令指定都市の長    :7万枚以内。
        一般市の長       :1万6千枚以内。
        町村の長        :5千枚以内。
  ニ)配布方法:選挙事務所内での配布、個人演説会場内での配布、
         街頭演説の声の届く範囲での配布、新聞折込みに限る。
         街頭演説をしていない街頭での配布やポスティングはできない。
 このように、非常に限られた期間に、限られた方法で配布される、限られた種類のビラ、ということになり、政治家の配布する文書としては、極めて例外的な存在です。
 そうなると、次に出て来る論点は、
は∞峪瓩配布した文書は、「有価物」である「うちわ」ではないのか
という点です。
 確かに、蓮舫氏が配布した文書は、厚紙でできており、指を通す「穴」が開けられていて、「うちわ」として利用することが可能です。しかし、松島みどり氏が配布した「うちわ」のように、柄がつけられているわけではなく、単に「穴」が開けられた紙であるに過ぎず、上述の「選挙運動用ビラ」の規格に合致しています。もちろん、作成費用は松島みどり氏の「うちわ」と比べると遙かに安価であり、仮に1万枚作成すると作成単価は20円を下回ります。つまり、「有価物」とは認められないというわけです。なお、この種のビラについては、日本で最も有名な選挙プランナーである三浦博史さんが、総務省や各地の選挙管理委員会と協議を重ねた上で考案され、「実用新案登録」も受けられています。従って、選挙運動期間中の「選挙運動用ビラ」として所定の手続きを取った場合に限り、全くの合法文書であり、蓮舫氏に問題はありません。

 なお、上述のように、「みんながやっているのに、松島みどり氏はかわいそうだ。」とか、「安価なうちわを配ったぐらいのことを追及している暇があれば、政策論争をしろ。」、「この程度の軽微な違反をいちいち検察に刑事告発すると、民主党自身を攻撃するのにその手が使われる。」という批判をする人が多いようです。しかし、プロとしてはっきり言いますが、「みんながやっていること」ではありません。確かに、松島みどり氏以外でも、同様の「うちわ」を配っている政治家は実在するようです。しかし、公職選挙法の規定を理解していれば、この種の「うちわ」は違反になる可能性が高いということは、すぐにわかるわけであり、よほど法制度を理解していないか、理解していても「これぐらい大丈夫」と舐めている陣営以外は、こんな「うちわ」は配りません。つまり、「みんながやっている」のではなく、「ほとんど誰もやっていない」のです。また、刑事告発の前例を作ると政権側が民主党封じに利用する、という批判も当たっていません。なぜなら、非自民系の陣営の場合は、既に厳しく取り締まられており、自民系だけが「お目こぼし」されているからです。これは、私が、元々は社会民主連合という小さな政党公認で政治家人生をスタートさせ、その後、新党さきがけ、民主党と、一貫して非自民系の政党に属してきた中でかかわった選挙の経験と、その後、日野町長選挙に自民党推薦で立候補した際の経験とを比較しても、明らかです。なんせ、三鷹市議会議員選挙に社会民主連合公認で初めて立候補した時は、選挙事務所の正面に、毎日夕方になると白黒パトカーが横付けされ、警察官からずっと監視されていたのに対し、日野町長選挙の時は、辻立ちしていると、パトロール中の白黒パトカーの中から、警察官がにこやかに手を振ってきたものです。このエピソード一つとっても、取締当局が、現場でどのような対応をとっているかは、明らかだと思います。それを考えると、「刑事告発したら逆に不利になる」という考え方も間違いであるとわかるでしょう。
(その2に続く)
 
 

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